Innovative Materials and Processing Research Center

革新的材料・プロセス研究センター

ホーム 研究 革新的材料・プロセス研究センター > News > 革新的材料・プロセス研究センター 2025年度シンポジウム「カーボンニュートラル社会の実現に向けた革新的材料・プロセス研究」開催報告

革新的材料・プロセス研究センター 2025年度シンポジウム「カーボンニュートラル社会の実現に向けた革新的材料・プロセス研究」開催報告

2026.03.23

持続可能な社会形成に寄与する「ひと・もの・環境の調和」に立脚した材料研究の今


革新的材料・プロセス研究センターは、2026年2月27日(金)10:00〜18:00、瀬田キャンパスRECホールにおいて「カーボンニュートラル社会の実現に向けた革新的材料・プロセス研究」をテーマとした2025年度シンポジウムを開催しました。シンポジウムは、本学兼任研究員による一般講演(計16名の個別研究報告)とゲストによる招待講演で構成され、講演終了後にはポスター発表(交流会)を実施しました。
→Eventページ】|【→プログラム(PDF)
※本記事では主に招待講演について紹介します。一般講演の題目・報告者については上記プログラムをご参照ください。

シンポジウムの冒頭では、センター長の河内 岳大教授(本学先端理工学部 応用化学課程)が開会挨拶およびプロジェクトの概要説明を行いました。

河内教授は、「1996年に設置されたハイテクリサーチセンター(HRC)の材料科学に関する研究部門をルーツとする当センターは、現在6期にあたる。これまでの活動を礎に、環境との調和・共生を指針とする世界水準の材料科学研究拠点を引き続き目指していきたい。本シンポジウムは多様な研究者からの知見が集う貴重な場となることを期待している」と述べ、1日のプログラム紹介の後、シンポジウムがスタートしました。


情報と計測の融合が拓く半導体産業の競争優位――熊本発・3次元実装技術革新への挑戦

招待講演には、熊本大学大学院先端科学研究部 准教授・橋新 剛氏にご登壇いただきました。
橋新氏は本学理工学部物質化学科を卒業後、立命館大学大学院理工学研究科において修士号、博士号(工学)を取得。龍谷大学ハイテクリサーチセンター博士研究員、長崎大学工学部助手、立命館大学生命科学部博士研究員、同助教、大阪大学特任研究員を経て、2014年より熊本大学に着任されました。現在は半導体用放熱材の開発、半導体製造プロセスの最適化、危険予知のための火山性ガス検知など、社会課題に直結した研究に取り組まれています。
→参照:橋新 剛氏インタビュー(熊本大学大学院自然科学教育部ニュースレター「森と風」)

橋新 剛氏(熊本大学大学院先端科学研究部 准教授)
招待講演の様子

橋新氏による招待講演は、「情報と計測の融合による半導体デバイス3次元実装技術の革新」と題して行われました。本テーマは、JST 2024年度CREST研究領域「社会課題解決を志向した革新的計測・解析システムの創出」において採択された研究の一つであり、国家戦略に直結する研究として高い注目を集めています。

半導体デバイスの微細化・高密度化が進む中、性能向上の鍵を握るのが「3次元実装技術」です。一方で、半導体製造プロセスにおいて発生する不良には、絶縁膜リークや局所発熱、微量不純物、応力歪みなどが複雑に絡み合い、その根本原因はナノスケールに潜在化しています。マクロな電気特性に現れる不良化の因子を解明できなければ、歩留まり(投入原料に対する良品の割合)向上や安定供給の実現は困難です。しかし、従来の経験や勘に依存した手法では限界があります。

橋新氏の研究は、この構造的課題に対し、「先端計測」と「情報科学」を融合することで突破口を開こうとするものです。
半導体デバイスのシリコン貫通電極(TSV)の製造プロセスに着目し、IR-OBIRCHを用いた熱発生箇所の特定や、I-V特性と絶縁破壊電圧による信号不良の抽出といったマクロ解析と、放射光によるTSV構造界面のミクロな格子歪み・不均一性の抽出、二次イオン質量分析(SIMS)による元素の存在状態の高感度・高解像度解析といったミクロ解析を統合、マクロ不良とミクロ因子の連関を見出し、製造プロセスとの因果関係を明らかにしようとしています。つまり、ブラックボックス化した製造プロセスを可視化し、最適条件をデータ駆動で導出する研究開発基盤を構築するという新しい発想です。

出所:橋新氏の講演要旨資料より「情報と計測の融合による半導体デバイス3次元実装技術の革新」

特筆すべきは、その研究が熊本県の「半導体関連産業集積に向けた取組み」とも結びつく可能性がある点です。熊本県では内閣府「地方大学・地域産業創生交付金」に基づく取り組みのもと、2023年4月に「くまもと3D連携コンソーシアム」を設立。三次元積層実装産業の実現を目指し、熊本大学が中核的役割を担いながら、企業・研究機関による研究開発および参入企業拡大を推進しています。
さらに、熊本大学では、産学官金連携による文理融合型教育を展開する新たな教育組織「熊本大学 共創学環」を2026年4月に開設予定です。地域視点と地球規模の視野を併せ持つ人材の育成を通じ、地域産業と先端研究を結ぶ実装志向型エコシステムの構築が進められています。

橋新氏の研究は、この地域戦略と呼応し、3次元実装の中間工程の高度化や不良低減技術の確立を通じて地場産業との接続可能性を広げています。製造プロセスの最適化には「ミニマルファブ(超小型半導体生産システム)」を活用し、試作・評価・改善を高速に反復。研究成果を迅速に社会実装へつなげる体制が整えられています。
また、研究はPhase1からPhase4まで段階的に設計され、不良因子の抽出、マクロ・ミクロ連関の解明、プロセスパラメータとの紐付けを経て、最終的には人工視覚デバイスへの応用を目標としています。

本研究の核心は、半導体製造プロセスを「経験と勘」から「データ駆動型科学」へと転換する点にあります。先端計測と情報科学の融合は、単なる技術革新ではなく、設計・製造思想の革新へと導きます。
2030年3月までの5年半の研究期間を通じて確立される見込みの基盤技術は、医療・ヘルスケア分野など高付加価値市場への展開も視野に入れています。地域集積と先端研究が結びつくことで生まれる新たな産業エコシステム。熊本発の挑戦は、日本の半導体産業の持続的競争優位を支える重要な試金石となることでしょう。


招待講演と一般講演(計16名の個別研究報告)終了後、副センター長の青井 芳史教授(本学先端理工学部 応用化学課程)が閉会挨拶に立ちました。
青井教授は、「革新的材料・プロセス研究センターは、2024年度より本学の学際的研究プロジェクトの支援を受けて、第6期の研究活動を進めてきた。中間評価を経て2028年度まで活動を継続していくこととなったので、引き続きご支援・ご協力を願いたい」と述べ、シンポジウムを締めくくりました。

シンポジウム終了後には、RECホール地下談話スペースにて、ポスター発表(交流会)を実施。会場では活発な質疑応答や今後の共同研究の可能性に関する意見交換が行われ、参加者の熱気に包まれました。

全プログラムを通して多くの皆様にご参加いただき、盛会のうちに終了いたしました。